グッピーの飼育
釣りは鮒に始まり鮒に終わると言われます。子供のころ近くの小川や池で鮒釣りをし、大人になってヘラブナ釣りの難しさ、深さを知ることになるように、グッピーは誰でも飼育し、繁殖もできる熱帯魚の代表です。私が初めてグッピーを買ったのは、1967年ごろです。中三の夏休みに工事現場のアルバイトをして稼いだお金で60cm水槽(当時はステンレス製のフレームにパテで硝子が張り付けられた水槽)を飼い、産子箱を自分で作って繁殖させたものです。病気といえば白点病程度で、フィルターと温度管理がしっかりしていれば、中学生にも簡単に飼育できました。
ところが1980年代になって、小型卵胎生魚の間でカラムナリス病が世界的に流行するようになって、これが一気に日本にも侵入し、事態は一変しました。多くのグッピーファンがこの病気のために水槽内の魚が全滅になるといる悲劇を味わい、グッピーをあきらめてしまったマニアが多いのではないでしょうか。現在はこの病気は完全に日本全体に浸透しており、どこから手に入れた魚でも発症のリスクがあります。
グッピーを楽しむためのノウハウはひとえにこのカラムナリス病を上手にコントロールすることにつきると思われます。正しい水槽管理をしていればいつも元気で、きれいなグッピーを増やしながら楽しめるでしょう。
1. 外国産グッピーと国産グッピー:外国産のグッピーはほとんどがタイやマレーシアからの輸入品です。特徴は派手なきれいな色で、♂は大振りです。しかし尾びれは丸っこい扇型のことが多い。ほとんどのケースでいろいろな品種が混ぜられていて、買って帰って繁殖させると雑種ができます。親と同じ品種にはなりません。一方国産グッピーは固定された品種の♂♀ペアで売られています。このペアを購入して繁殖させれば親魚とほぼ同じ子供がとれます。色がきれいで、尾びれは三角の扇型で大きいのが特徴です。価格は外国産より高く、1ペア1000円から3000円します。コンテストクラスのものではオークションで3万円の値段がつくことがあります。私個人の意見では外国産グッピーはお勧めできません。理由は①病気の問題、②雑種になってしまうため、繁殖を重ねるにつれて、きれいでなくなってくること、そのためせっかく増やしても楽しみが少なくなります。一方、国産グッピーは純血種です。血統の維持に注意しながら種親を選別すればさらに良い子供がとれ、同じ様にきれいなグッピーを増やすことができます。飼育、繁殖の楽しみがあります。このような理由から、少々値段が高くても国産グッピーをお勧めします。
2. 外国産グッピーを買う場合:ほとんどの外国産グッピーは病気を持っています。大量生産で過密な状態で飼育されていて、長時間かけて輸送されてきます。その間に体力的に消耗していて、病気の発病リスクが高くなっています。入荷直後の魚は買わないほうがいいと思います。店頭では元気でも持ち帰ったころから発病して急に死んでしまう可能性があります。お店で入荷日、その後にトリートメントをしたか?お店の水槽の水にどのぐらいの塩を入れてあるか聞くと良いと思います。病気の発病予防のために飼育水に0.3%の塩が入れられている場合があります。これを知らずに急に塩なしの水に移し替えると急激な浸透圧の変化で病気を発病するリスクがあります。購入後の魚はポリ袋の水を捨てずに、その水に自宅で用意した水を同量混ぜて、1時間ぐらい置き、さらに同量の水を入れて徐々に水ならしをします。病気を確実に予防したい時(こだわりの方法):水合わせ後に10Lべアタンク(水槽には水だけを入れて、砂、フィルターを入れない)に水を入れてバブリングだけを行う。0.05%マラカイトグリーン溶液を1ml入れる。その中にグッピーを入れて5日間少量の餌を与えて薬浴する。6日目にエルバージュ®10%顆粒を0.1g(有効薬量10mg)を入れる。24時間の薬浴後きれいな水の水槽に移す。これでほぼ完ぺきにカラムナリス病を治すことができます。
3. 国産グッピーを購入する場合: 国産グッピーはほとんど病気を持っていないが、外国産グッピーを販売しているペットショップでは仕入れ後に感染している場合が多い。したがって、仕入れ後できるだけ早期に買ったほうがよい。仕入れてから時間が経つと次第に感染個体が増えていくようです。泳ぎ方、尾びれの状態をよく観察し、感染がないか確認します。水面近くで体幹全体をくねくねと使って泳いでいる魚はすでに発病していると考えたほうがいいです。俊敏に水槽の中を上下に泳いでる個体を選ぶ。お店のひとに仕入れからどれくらいたっているか聞くのもよい。買ってきたら、10Lのベアタンクで0.05%マラカイトグリーン溶液を1ml入れて5日間薬浴する。その後新しい飼育用水槽に移す。販売魚水槽に病気の魚がいる時は購入を見合わせたほうがいいです。どうしてもほしい場合は外国産と同様にマラカイトグリーンとエルバージュでの薬浴を行うと完璧に治ります。エルバージュ浴が24時間を越えると内臓障害のためか、メスが妊娠しにくくなりますので、注意しましょう。
4. 水槽のサイズ:1ペアだけ飼育するのであれば30cm水槽で十分です。そのうち繁殖をして増えてきたら40cmまたは60cm水槽にするとよいです。40cm水槽なら10ペア以内、60cm水槽なら30ペアぐらいOKです。
5. ろ過装置:上面式、外部式、スポンジフィルター(エーハイム、ブリラントフィルター)いずれを使用しても構わない。生物ろ過が十分に行われる環境にすることが重要です。アクアリウムでのろ過とは、単に水の濁りを除去するということではなく、魚の排泄物や餌の残りが腐ってできるアンモニアをバクテリアの働きを利用して無害な物質にまで分解することなのです。新しく水槽をセットする場合は、装置内のバクテリアが増殖して、ろ過機能が十分に働くようになるまでに2週間を要します。これを早くするには、市販のバクテリアを使用するとろ過機能の立ち上がりが早くなります。
6. 砂、水草、流木、石等:水槽内を庭園の様に生きた植物や流木を使って美しくレイアウトすると一層楽しくなります。さらにこれらはバクテリアの住処にもなり、水質の維持にも重要な働きをします。欠点は、いざ病気が発生したときに病原菌を除去するにはすべて煮沸消毒、またはアルコール消毒しないといけないこと、砂や流木、水草は治療薬の働きを阻害します。
7. 水温管理:温度調節機能のついたヒーターを購入します。グッピーの好む水温は22℃~25℃です。温度が低すぎるとカビによる病気(白点病)、水温が高すぎるとカラムナリス病になりやすいです。冬場はヒーターでの加温が必要です。問題は夏場です。27℃以上になるのを避けるには、なるべく気温の低い場所に置くこと、陽のあたる窓辺や閉め切って30℃以上になるようなところには置かない工夫が必要です。夏場に水温を下げたい時は、小型扇風機を水面に当てると3℃ぐらい水温を下げることができます。水を蒸発させて気化熱を奪うことを利用する方法なので、水槽への水の補給を怠らないことが重要です。
8. 餌:グッピーは高蛋白の餌を好みます。またデンプンを消化する機能がないといわれています。蛋白含量40%以上のグッピー専用の餌がいいです。私はおとひめ®を使っています。また、グッピーは肝臓の働きが弱いため食いだめができません。こまめに餌を与える必要があります。できれば1日3回に分けて与えるほうがいいです。1日一回ではダメというわけではありません。時間がなければ1日1回の餌でも十分に発育します。餌の与えすぎは水の悪化を起こします。グッピーを密に飼育している水槽ではフィルターは1週間に1回軽く洗浄したほうがよいでしょう。この時に気をつけることは、フィルターの炉材を洗う時です。水道水を使用すると塩素でバクテリアが死滅します。脱塩素した水で洗浄しましょう。また完全に洗うのではなく、炉材の過剰な汚れを除去する程度にしておくことが重要です。炉材中のバクテリアをのこして、ろ過機能を低下させないようにしましょう。
9. 繁殖:グッピーは卵胎生です。交尾をしてメスのおなかの中で受精し、孵化してから20~30匹産仔します。出生後すぐに泳ぎだしますが、小さいため親が子供を食べてしまいます。水草が沢山あると子供が隠れて生き残可能性が増えます。出産した子供をすべて回収したいなら、専用の産仔箱を使うと仔と親を分けて食べられてしまうのを防げます。子供は別の水槽に分けて育てます。仔の餌は生きたブラインシュリンプが最適です。これがない場合は成魚用の餌をつぶして細かくして与えます。4か月ぐらいで親になり、子供を産む程度に成長します。子供はすべて同じではありません。少しずつ鰭の形、色合いなどに多様性がでてきます。何も工夫をせずに自然に繁殖させて世代を重ねていくと必ず、全体の品種の質が悪化します。いい品種を維持するには仔のなかで最も良い♂を選んで、種親とします。問題はメスです。メスは形質の良いものを見分けるのに経験が必要です。形質は微妙に表れます。身体が大きく尾鰭の色形の良いメスを選ぶとよいです。一流のブリーダーは♂♀の判別が付けられるようになったら♂♀を分けて飼育します。形質の悪い♂の遺伝子を入れないための工夫です。きれいな品種を維持して大きな水槽の中に群泳するグッピーを思い描くと胸が高鳴りますね。